2015年 2月(2014年12月調査)
[00]最近の景気動向と企業倒産
輸出の回復と製造の国内回帰 需要低迷や関連する原油価格下落による世界的なデフレ圧力は各国の金融政策に大きな転換を迫っている。1月はスイス国立銀行がECB(欧州中央銀行)の量的緩和導入を前に2011年9月から継続していた1ユーロ=1.2スイスフランの上限を撤廃し金融市場は混乱を極めた。その後、21日にカナダ中央銀行が政策金利を引き下げたのを皮切りにECBは22日の理事会で2015年3月からの金融緩和を決定し、28日はシンガポール通貨庁が金融緩和に踏み切った。2月に入りオーストラリア中央銀行が政策金利を引き下げ、中国人民銀行も市中銀行の預金準備率を引き下げるなど世界的緩和の流れに追従する動きを見せ、さながら「通貨安競争」の様相を呈している。 わが国においてもすでに歴史的な規模での金融緩和が行われ、先行指標である株価や為替に大きな変化を及ぼし、円安メリットや大手メーカーの収益構造改善の努力がいよいよ業績に現れはじめ、電機・自動車の生産拠点国内回帰など、国内経済に関する明るいニュースも聞かれ始めたことは前述のとおりだ。この一連の動きが懸案の個人消費拡大に繋がれば景気回復もいよいよ軌道に乗ることとなる。 個人消費が弱い原因のひとつとして長期間の実質賃金低下が指摘されている。その理由は労働者の正規雇用から低賃金の非正規雇用へのシフトであり、厚生労働省の資料を見る限り、雇用者数の増加とは非正規雇用の増加であることがわかる。 現政権での雇用制度改革は、高い労働生産性の実現に向けて従来の雇用維持から労働移動支援への転換を掲げている。経営の危機に瀕した企業が雇用を維持することで成長余力のある企業への人材移転が阻害されているとの考えによるものだ。このように雇用のミスマッチを解消し、円滑な労働移動を図ることは産業を内側から新陳代謝する手法として大いに期待できる反面、失業者を適切な労働環境に再配置する為の方策が十分に機能している必要がある。失業者がたちまち生産性の低い低賃金労働に吸収されるのでは本末転倒であるからだ。また、政府が非正規雇用の活用で労働力人口減少や少子化問題など様々な問題解決を行おうとする場合、最初に必要なのは正規雇用と非正規雇用の格差是正、つまり同一労働同一賃金の法制化である。雇用制度改革が単なる人件費削減や解雇要件緩和の議論ではないことを期待したい。 12月の倒産件数は712件(前月比6.8%減、前年同月比8.7%減)、負債額は1,784億5,500万円(前月比54.3%増、前年同月比を下回った。負債額1千万円以上の倒産は686件(前月比6.8%減、前年同月比8.5%減)、負債額は1,783億1,400万円(前月比54.4%増、前年同月比32.7%増)であった。倒産件数は2014年で最少となり、低い水準に抑制されている。 業種別集計では飲食業や運送業、不動産業のほか、農業で前年同月比が増加となった。為替相場や資源価格の変動によっても強い影響を受けるが、これらの要因が倒産件数の変化として顕在化するまでには一定の時間差がある。円安によって輸入資源価格が高騰する一方で2014年6月以降急激に進んだ原油価格の下落が業績向上に寄与することが想定されるものの、それが倒産件数の減少となって表われるまでには、あと若干の期間を要するものと思われる。 |
[01]12月の主な動き
(1)倒産件数は2014年の最少 12月の倒産件数は712件(前月比6.8%減、前年同月比8.7%減)、負債額は1,784億5,500万円(前月比54.3%増、前年同月比を下回り、2014年の最少件数であった。負債額1千万円以上の倒産は686件(前月比6.8%減、前年同月比8.5%減)、負債額は1,783億1,400万円(前月比54.4%増、前年同月比32.7%増)であった。 (2)小規模企業倒産構成比は再び90%を割る水準へ 小規模企業(商業・サービス業は従業員5人以下、製造業その他は20人以下)の倒産は631件(前月比8.4%減、前年同月比8.7%減)で月次倒産全体に占める割合は88.6%(前月比1.6ポイント低下、前年同月比横ばい)だった。90%を超えた11月から再び88%台に戻している。件数は前年同月比で減少し、2014年最少件数となった。 (3)「販売不振」「既往のシワ寄せ」減少するも「不況型」の構成比は80%を超える 負債額1千万円以上の原因別倒産件数は「過少資本」「既往のシワ寄せ」が前年同月比で大幅に減少し、企業の資金繰り改善を裏付ける結果となった。また「販売不振」491件は1999年2月(478件)以降で初めて500件を割る低い水準になった。 不況型倒産(販売不振、既往のシワ寄せ、売掛金回収難の合計)は560件(前月比4.8%減、前年同月比8.2%減)で、「販売不振」と「既往のシワ寄せ」が件数の減少に寄与したものの、「過少資本」減少の影響で、月次倒産に占める割合は81.6%(同1.7ポイント上昇、同0.3ポイント上昇)と前月(79.9%)から上昇した。 (4)業種別では運送業、農業、不動産関連増加 業種別の集計では「飲食業」「その他」が前年同月を上回っており、「その他」の内訳では一般貨物自動車運送業や不動産関連業種で倒産件数が前年比で増加、野菜農家や酪農・養豚業も増加した。後継者難のような構造的な課題に加え、円安変動による輸入材料価格の高騰、人手不足といった困難に直面する業種の動向には今後も注視したい。 |
[02]負債規模別の動向
~負債額100億円以上の倒産が4か月ぶりに発生~ 負債額1000万円未満の件数は26件(前月比7.1%減、前年同月比13.3%減)で月次倒産に占める割合は3.7%(前月比横ばい、前年同月比0.1ポイント低下)であった。 負債額上位5社は(株)インターナショナルイーシー(負債額485億5,300万円、貸事務所業、破産、東京都)が唯一負債額100億円を超えたほか、姫路土地(負債額98億円、ボウリング場、特別清算、大阪府)、(株)J-NEXT(負債額77億7,400万円、情報処理サービス業、特別清算、東京都)、(株)TN企画(負債額70億円、まき網漁業、破産、長崎県)、(株)ASS(負債額40億円、建築工事業、再生手続、愛知県)が負債規模の上位を占めた。 |
[03]業種別の動向
~「その他」区分では一次産業、運送業、不動産関連の増加目立つ~ 「建設業」の中分類は全区分で前年同月を下回った。今年に入り大幅な増減を繰り返した「建築工事」は35件(前月比30.0%減、前年同月比20.5%減)と2014年でもっとも少ない件数だった。 「その他」の内訳では農業を始めとする一次産業、運送業、不動産関連業種などでの増加がみられた。(下表参照) 負債額1千万円未満の集計では、「小売業」「飲食業」での前年同月比増加が目立った。 「その他」に含まれる業種の前年同月比較(12月) ※倒産が発生した業種のみ表示しています 「産業分類コード」は日本標準産業分類に準じる ※オレンジ=増加、水色=減少
|
[04]原因別の動向
~「他社倒産の余波」が前年比で増加傾向~ 「販売不振」は1999年2月以来15年10か月ぶりに500件を割る水準になった。一方、「他社倒産の余波」は件数自体は低い水準に抑えられているが、2014年9月以降4か月連続で前年同月を上回っており、今後の動向に注目したい。 不況型倒産(販売不振、既往のシワ寄せ、売掛金回収難の合計)は560件(前月比4.8%減、前年同月比8.2%減)で、月次倒産に占める割合は81.6%(前月比1.7ポイント上昇、前年同月比0.3ポイント上昇)であった。 |
[05]従業員規模別の動向
~従業員「4人以下」の構成比は前年比で上昇~ 従業員「4人以下」は497件(前月比8.3%減、前年同月比6.4%減)で、月次倒産に占める割合は72.6%(同1.3ポイント低下、同1.5ポイント上昇)となった。 小規模企業(商業・サービス業は従業員5人以下、製造業その他は20人以下)の倒産件数は631件(前月比8.4%減、前年同月比8.7%減)で月次倒産に占める割合は88.6%(同1.6ポイント低下、同横ばい)となった。 小規模企業倒産の構成比・前年同月比の推移
|
[06]資本金規模別の動向
~「5億円以上10億円未満」で10か月ぶりの発生~ |
[07]営業年数別の動向
~「30年以上」の減少傾向続く~ 営業年数の長短と倒産件数との有意な関連は見られなかった。倒産原因とのクロス集計では「2年未満」で「他社倒産の余波」「その他」が前年同月からの増加要因となり、「30年以上」では全体的に減少した中で「販売不振」「放漫経営」が増加分に寄与した。 |
[09]倒産原因・営業年数別の動向
~営業年数20年以上の「過少資本」「既往のシワ寄せ」減少~ 原因別集計では「過少資本」「既往のシワ寄せ」が前年同月比でそれぞれ40.9%減、32.7%減と大幅な減少を示し、「過少資本」では営業年数10年以上、「既往のシワ寄せ」では「6年以上10年未満」と20年以上の区分でそれぞれ大幅に減少した。 不況型倒産(販売不振、既往のシワ寄せ、売掛金回収難の合計)はすべての営業年数区分で前年同月を下回ったが、構成比は「6年以上10年未満」(87.3%)、「30年以上」(84.8%)でやや上昇した。 倒産原因・営業年数別の倒産件数(負債額1千万円以上・12月)
倒産原因・営業年数別の倒産件数前年同月比増減率(負債額1千万円以上・12月)
倒産原因・営業年数別の倒産件数前年同月比増減数(負債額1千万円以上・12月)
|
1-10 of 11